
中学生のレッスン。
今回取り組んでいるのは、「ある夕暮れ」を題名にもつ曲です。
ABABAの形。
最後のAは、コーダ。
音の流れの中に「一日が終わっていく時間」が描かれているような曲です。
レッスンでは、まず楽譜の中に描かれた“場面”を一つずつ話し合いました。
生徒さんが言葉で描いた情景が、とてもすてきでした。
明るいオレンジの夕日。
まだ少し青空も見える。
小学生の声や、工場の機械の音が聞こえてくる。
やがて、夕日は沈み、黒の暗さがやってくる。
外から聞こえていた声は、家の中から聞こえるように変わり、
家のあちこちに灯りがともる。
妹と笑いながらじゃれ合う夜。
笑い声が部屋に響く。
そして「おやすみ」と部屋を出たあと、急に訪れる静けさ。
聞こえてくるのは、シャーペンの音、家族の足音、
そして、眠りについた妹の寝息・・・
勉強しながら、何度かうとうとしてしまう夜。
その瞬間にふと感じる、時間の流れのゆっくりさ。
あんなに早く過ぎてしまう日中とは違う、夜の時間の流れ。
そのすべてを、音で感じ取りながら弾く。
「何が弾けるか」ではなく、
「何を弾くのか」。
自分の生活の中にある“時間のうつろい”を音にすることが、
この曲の本当の魅力を引き出すカギになります。
ピアノは、ただ指を動かすだけのものではありません。
日常の中で感じている音・光・静けさを、
“自分の音”として表現する力を育てるレッスンです。
「感じて、音にする」・・・
それが中学生の今だからこそ、心に残る経験になります。